大川峠

人生初の夜釣りを敢行してきた。ターゲットは「メバル」。
大阪から車で南下し、深日から和歌山に入り海岸沿いをしばらく走ると、加太の手前の紀伊半島の西端に山道が現れる。今回の釣り場である「大川峠」だ。この山道を登りつめて下ると、ゴロゴロした岩や石で形成された通称「ゴロタ浜」という遠浅の浜辺に、この季節型の良いメバルが釣れるという情報を耳にして勇んでやってきたのが経緯である。
ところが、話では聞いていたがこの大川峠は大川トンネルが開通してから、現在廃道になっており自転車を除き車両通行止めになっている。歩かなければならない。夕暮れ時に到着したぼくらは釣り道具を一式抱えて、急峻な坂道を登って行った。すると頂上に「大川遊園」という看板が目に飛んできた。すでに廃園になっている。この遊園がいつ開園され閉園されたのかは知らないが、ここを通らないとゴロタ浜にはたどり着けないと同行者はいう。言葉では形容しにくいが、なかなかの雰囲気を醸し出している。正直、怖い。森林が密集した中を進んでいくと、手入れがされずに荒れはてているレストランやジャングルジムなど当時のまま放置されている。まだこの時間だからたどり着けるが、周りは外灯もなくあと少し時間が遅かったら確実に引き返していただろう。こんな場所なので釣り人や何か用事がある人以外通ることはまずなく、ある意味治外法権である。ぼくは心霊とか怪談とかいわゆる「怖いもの」が得意ではなく、決して安易に囃し立てることない。生きとし生けるものの礼儀である。そんなことをおくびにも出さず引きつった顔で険しい山道を下ると、目の前に壮観なゴロタ浜がやっと姿を現した。近づくとやはり海水は大阪と違い透き通っており、潮の流れも悪くない。ぼくらは早速準備に取り掛かった。
メバルの釣り方はそれぞれで、若い子たちはとくにメバリングと呼ばれるルアー(疑似餌)が主流だが、われわれおっさん連中はやはり仕掛け重視の浮き釣り(電気)だろう。エサは今回アオイソメを用意した。メバルは警戒心の強い魚でちょっとした音や振動に反応するので、釣竿や道糸、ハリスは1号程度の細かい仕掛けで勝負するが、これが苦労する。日が落ちて暗くなると、まぁ見えない。なんとかライトの灯りで作業を行うが昼釣りに比べて時間も食うし、気づかずに海を照らすと魚も逃げるので仲間と行くときには神経を使うのだ。
この日は海のコンディションは悪くなかったが、風が強くまたほぼ満月に近かったので月光が水面を照らしはじめると警戒心の強いメバルたちは岸に寄らず沖に逃げてしまう。釣りには適していないが、ぼくは内心ほっとしていた。この灯りひとつない浜辺で、周りは鬱蒼とした樹木に囲まれて物音しない環境の中、とてもじゃないがひとりで夜を越せる自信がない。
ぼくは3時頃には眠気がピークになって、ゴロタ浜に打ち上げられた無限の投棄ゴミの中から適当な板を見つけて寝転んだ。見上げらると北斗七星が燦々と輝いている。贅沢なシチュエーションだ。月夜に照らされた凪ぎが幻想的に映り、一定のリズムで飛沫をあげている。うとうとしながらも、目を凝らして仲間の姿だけは確認していたのは内緒である。
残念ながら、メバルンルンとはいかなかったが、それなりにカサゴ(ガシラ)が釣れたので良しとして、朝日を背に受けながらゴロタ浜をあとにしたのだった。

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