大きな背中のちいさな影

関東方面に出張だった。あいにく天気は下り坂で、台風も日本列島に接近し、雨は止むことなく降り続けていた。初日は名古屋で工作機械の展示会の取材。2、3日目は横浜の中華街近くのホテルで配管組合の総会があった。
疲弊した身体にはアルコールが瞬殺だ。ホテルの部屋に到着するないなや、すぐにベッドに倒れ込み、仕事が無事に終わった安堵感と胡散臭い日常からの解放感で、深い眠りに落ちていった。
今回の出張は最終日に時間が取れた。どこに行こうかいろいろアイデアが浮かんだが、ぼくにはどうしても会わないといけない人物がいた。それは以前にも紹介した高校の部活の顧問である「くっさん」こと楠本先生である。
くっさんは現在、バスケットのB3リーグの「鹿児島レブナイズ」のコーチに就任している。就任したのはリーグ開始直前で、慌ただしい中、大阪を離れて遠く鹿児島に飛んでいった。半年ほど前まで、まさかチームが変わり鹿児島に移るとは想像もできなかった。鹿児島で記者会見を行っているくっさんの姿を見て、すぐさま電話でアポイントを取り、東京での試合を観戦させてもらうことにした。
勝負の世界ではありがちなことだが、今季から同じB3である鹿児島レブナイズのHCに就任し、観戦日は奇しくも昨年まで指揮をとっていた古巣との初対戦となった。
ちなみにぼくとくっさんとの関係や日本バスケット会の仕組みなどは前回紹介した由、今回は割愛させてもらう。
会場は東京の中央区にある総合スポーツセンターだった。当日の朝、横浜から新宿まで出て都営線で向かったのだが、それにしても、まぁ人の多いこと。まだ午前中なのに、年齢や人種を問わず蠢く人波に辟易し、それでも自分もその中のひとりなんだと思い返し、雨の中、重たいキャリーバックを転がして満員電車の車窓に映る顔を見て、二十代の頃、よくこの街で生活していた自分が信じられなかった。
到着すると、すでにくっさんはベンチに入り、選手たちのコンディションやウォーミングアップを見守り、チーム内でコミュニケーションを取りながら談笑している。まだ新チームに参加して2ヶ月とは思えないほど、雰囲気がいい。遠くはるばる鹿児島からの関係者や昨年までお世話になった調布の女将さん等が応援に駆けつけていた。本人は人見知りだというが、そんなわけがない。全国からくっさんを慕って集まる人望に敬服し羨ましくさえ思った。
くっさんはぼくを見つけると、胸を叩いて拳を突きだし、「ありがとう」とぼくの拳と合わせた。ぼくはくっさんの元気そうな姿を一瞥しただけで、「もう、これで充分だな」と変に納得してしまった。
くっさんが指揮をとる姿を見るのは、実に十数年振りになる。高校生の頃、スコアを書いているぼくの横で、圧倒的な威圧感と自信に満ち溢れている先生の姿(本人はそのつもりはないだろうが)が目の前でデジャブのように蘇った。当時よりスマートになったが、その大きな背中に守られて選手たちは、見えない使命感を抱きながらコートを駆け回る。
試合自体は前日の対戦含め、古巣相手に100点オーバーの試合で止めを刺した。くっさん自身、期するところもあっただろう。それはコーチ業を生業とするものだけが抱える、誰にもいえない葛藤や悩み、孤独だ。101点目のフリースローは、きれいな弧を描きボールがネットに吸い込まれた。その瞬間、くっさんの表情が緩んだように見えた。
試合終了後、くっさんの元には知り合いから仲間からの祝福や激励の声が飛び交っていた。強面のこの大男の前には自然とかわいい女性たち集まる。
喫煙所に現れた恩師は、今日のゲームを振り返り、熱く、ロジックに解説してくれた。そして「俺はどこに行っても、どこのチームでも、変わらずやっていくだけや」そう言い残し、足早に去っていった。くっさんの影が遠のいて、喫煙所は余韻に包まれた。
今回久しぶりにお会いして、改めて感じたのは、この人はいつだって誰にでも「フェア」ということだ。これは簡単なようで案外難しいことだ。人に対して「差」を設けない。大抵の大人は年を取るにつれ、処世術というか世間体というか、ごまかして社会の中で生きている。麻雀で例えると、安牌を切って降りるのがその道だが、くっさんは相手の危険牌をどんどん切ってくる。当然敵も作るし、批判を浴びる。しかし、一発でツモることができるのがくっさんであり、だから大勢の仲間が慕い、くっさんを応援し、裏ドラも乗って夢という満貫を掴むことができるのだろう。
孤高のバスケットマンは、これからも体力がある限り走り続けるはずだ。2020年の東京オリンピック。その舞台に先生がいつものようにぼくらに向かって胸を叩き、拳を突き上げる姿を想像した。ぼくは最後までくっさんを属目していこうと思う。

このブログで興味をもってもらえたら、是非「楠本和生」のSNSに足を運んでもらいたい。50代の同世代、サラリーマンの方々は何かを感じてもらえるはずだ。そして鹿児島レブナイズに注目してほしい。初めて観戦したが、非常にいいチームだった。バランスの取れた若手から中堅が主体のこれからのチームで、地域と選手の繋がりが強固な模範チームになりうる。追記で女性の方に朗報だが、イケメンが多数在籍している。好きな選手を見つけて、是非鹿児島レブナイズを応援しましょう。

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